2003年4月のメッセージ

大学は儲かる?顧客主義

先月、買い手(客)が売り手(店)の言いなりになるのではなく、顧客が店(会社)の選択ができるようにしてなったのは江副さんのリクルートのお陰と、書きました。今回は、売り手と買い手の主導権争いではなくて、そこに第3者が出てくる問題を話題にしたいと思います。売り手が売りたい、買い手も買いたいという市場に、第3者が出てきて売っちゃあいかんと規制をする話です。

宅急便で信書を送りたいという人がいて、宅配便で信書を送りたいという業者がいて、お互いがそれで合意をしていても、第3者(国)が宅急便で信書を送ってはならない、郵便局を使えと言います。年賀状が配達されずにアルバイトの局員に捨てられたというニュースに我々が驚かないのは、日常でも郵便が届かなかった経験を誰もが持っているからです。ファックスのメリットは早く届くことだけはなく、郵便より信頼感があることにあることにあります。宅急便で信書を送りたい・受け取りたいのは、過疎地の人でも同じこと。売り手と買い手がいて産業が生まれるのです。ユニバーサルサービスというのは戦中の配給制の発想であり、戦後日本の制度とは異なります。

私の役割はもちろん政治にコミットすることではなく、だから郵便局の話ではなくて、今回は大学の話です。これまで日本の大学は、日本の高校を卒業しなければ受験できませんでした(加えて大検という制度がありますが)。インターナショナルスクールを卒業すると、インターナショナルバカロレア(IB)という資格を得られますので、世界のほとんどの国の一流大学に入れますが、日本の大学にだけは入れませんでした。これは日本の大学の閉鎖性をよく説明していましたが、今回それがついに改善(規制緩和)されました。画期的なことです。

学生は入学したいし、大学もその学生を受け入れたい、売り手も買い手も合意していることを、国が規制していたのです。日本の税金を払っているのにインターナショナルスクールの学生は日本の大学には入る資格がない。入りたければ日本式の高校に行きなさいという。折角の規制緩和の英断が、民族学校を排除したとの理由でマスコミから攻撃の的となりましたが、この改革はもっと評価してもいいと思います。結局、民族学校の学生も入れるようになり、さらにすばらしいことになりました。朝鮮学校を出ようがアメリカンスクールを出ようが、そこに日本の大学を受けたい学生がいて、その学生を日本の大学が受け入れたければ、第3者が規制するべきではありません。宅急便で郵便を送りたい人とその郵便を届けたい宅急便会社があれば、事情を把握していない第3者が規制をするべきではないのと同じです。ただし、市場原理に任せようというこの発想は、もちろん市場を構成する人達の見識が高い(少なくとも国よりは)ことが前提ではあります。

さて、遅くなりましたが、本題です。私は、学びたいという学生がいて教えたいという教官がいれば、国の規制を受けることなく授業をすることを許して欲しいのです。どうして日本の大学は、厳しく教官の講義を規制するのでしょうか?文科省の定める定員以上の学生を大学が受け入れてはいけないのです。良質の講義をするためという理由でしょうが、お役所的といわざるを得ない。それなら教官定員を増やせばよい。しかし、教官定員も学科の編成も厳しく規制されています。

私は国立大学の教官には今の定員以上の学生を教える余裕があると思います。1学期に2つか3つぐらいの講義しか受け持ってはいないのですから。インターネットを使えば、教室の40人の学生に対してだけではなく、もっともっと大勢の人にコンピュータ越しに、離れた場所、離れた時間に授業ができます。私は、阪大に入学した学生以外にも、もっとナノテクノロジーを教えたいと思います。仕事で忙しくて学生になれない・学生に戻れない社会人にもナノテクノロジーを教えたいと思います。学びたいという人達がいるならがその人達に教えたい。売り手と買い手が合意すれば、もっと自由に教育を提供してもいいのでは、と考えます。

というわけで、阪大FRCではFRe大学というe-learning講座を開講することにしました。無料では私学の経営を圧迫するので、私学と同じ立場で、有料にします。兼業兼職やらいろいろ指摘を受けましたが、ついに4月から始めることになりました。これは、実は私は儲かるのではないかと思っています。売り手と買い手の間でビジネスが成り立つからです。受講生が求める他では聞けない内容を講義をすれば、高い価格設定が出来ると思います。

今大学ではどんなにくだらない授業をどんなに下手に教えても、学生は授業を受けてくれます。卒業するためには私の単位が必要だからです。でも、卒業とは関係なく高い授業料を払って受けるFRe大学は真剣勝負です。面白くなければ学生はいなくなるでしょうし、授業料返還を求めて訴えられることもありうる。その代わりに人気が出てくれば、講師は儲かる仕組みです。これからの時代の教育は、ユニバーサルサービスとか配給制として行うものはなく、売り手と買い手の間のビジネスなのかもしれない、と思うようになってきました。大学の授業が不人気な中、駅前NOVAやカルチャーセンターなど、教育ビジネスは大流行です。国民は教育に飢えています。FRe大学の講義に、教官は大学内の授業にない緊張と興奮を覚えます。FRe大学での講義経験を経て、教官のファカルティディベロップメント(教育能力の向上)を自然に達成し、学生をお客さんだと教官が思えるようになれば、このたくらみは成功だと思うのです。そして、大学は教育をして儲かるのです。SK

朝日新聞(2002年12月31日)1面(記事)および3面(解説)
朝日新聞(大阪本社、2003年2月2日、東京本社、2月5日)「ひと」欄

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