2004年1月のメッセージ

合併

1月のメッセージがすっかり遅くなりました。

市町村の合併が毎日のように新聞紙上を賑わせています。合併を推進するために、いろんなアメとムチが用意されているようです。バス・電車と徒歩の生活から車社会になって、人々の生活・行動範囲が広くなりつつありますから、市町村の行政面積が広くなるのは、当然の流れです。福祉バスを各市ごとが走らせても、その市内を巡回するだけでは不便で、市の行政の枠を超えたサービスが求められます。市境に住む人たちは、学校区や水道などの行政区分に不便を感じます。新しい宅地や学校、ショッピングモールなどが古い町の中心ではなく、都市の端や二つの町を挟んで、できます。私の通う阪大の吹田キャンパスも、その中に茨木市と吹田市の市境があり、郵便番号や電話局は別なのでとても不便です。わずか数キロメートルの間に、豊中市立病院と箕面市立病院がありますが、どちらも互いの市境から数百メートルの距離にあり、要するに町の中心から外れたところにあります。もし合併か連携してくれれば、もっと効率が良くなってもっと便利になるのではないかと思います。市民会館に至ってはわずか数キロ平方の間にいくつもあり、どれもこれも同じような企画やサービスをしており、税金の無駄使いを感じます。電話帳は市や区毎に分冊されていますが、生活範囲よりあまりに小さくて、まるで役に立ちません。お店を探すときは、電話帳ではなくインターネットになるわけです。

そんな訳ですから、住民の側から合併を求める運動がたくさん生まれています。それに対して、議席を失う恐れのある市会議員・町会議員さん達が反対して合併を議会で否決したり、合併するものの議員数を減らさないなど、という悪質な例もよく新聞で目にします。

こんな風に考える私が、それでは、いまの市町村の合併に賛成かというと、必ずしもそうではないのです。なぜなら、いまの市町村合併は、このような議論と全く違うところにあるからです。

最大の問題は、とにかくまず合併ありきで、地域ごとの事情が勘案されていないことです。合併してメリットのある地域はどんどん合併すればいいし、小さい方がやり易いところはむしろ分割したり独立してもいいと思うのですが、画一的な理由無き合併論です。都市の最小面積や最少人口などを決めることは不毛な議論であり、住民が合併を求める声は、それらとは全く違うところにあります。

ロスアンジェルスと言う1200平方キロ、370万人の広域都市がありながら、その中に14平方キロ、人口3万人のビバリーヒルズという小都市を認めるアメリカの余裕がうらやましいと思います。

国が強制して合併を求めるのなら、いっそ、その町は日本から独立してみることを考えてはいかがでしょう。



そんなことあり得ない??いえいえ、あり得るはずです。面積55万平方キロの大国フランス(日本の1.5倍!)の中にあるモナコ公国は、面積はわずか1.5平方キロたらず(阪大の吹田と豊中の二つのキャンパスを併せたのと丁度同じ広さ)です。人口は2万人(これも阪大の人口と同じ)です。日本にあれば、国家どころか独立の市や町としては認められず、確実に合併を強制されていることでしょう。他にも世界中には、日本の町より小さな国がたくさんあります。

市町村の合併、企業の合併、省庁の合併などなど、いま日本は合併ブームです。組織は生きているのですから、いつでも合併や分割、再編があっていいと思います。しかし、なぜ誰のために合併するのか、その議論のない合併は間違いです。たくさんの失敗がそれを証明しています。

さて、ここからが今月の本論です。



私の属する(ただし併任として)阪大の工学研究科は、いま執行部が専攻の合併を強要しています。7年前の大学院重点化において21世紀に向かって新しい学問体系と人材の創出を目指して、応用化学と応用生物学との緩やかな連携を行ってきた応用物理学専攻は、年末に、研究科長に精密工学専攻と合併して一つの専攻になるように強要されました。もし言うことを聞かなければ、研究科長の管理下に置くとまで脅されました。学問の流れやパラダイムの変化についての話は全く聞いてもらえず、専攻の大きさだけが論点です。学生数の多い専攻や少ない専攻が共存することは認められず、専攻の数とか一つの専攻の教授数といった、数の議論しかないのです。その結果、工学研究科にある個性的な専攻や新しい専攻は、ほとんど潰されることになりそうです。

未来の学問や産業や人材を世界に産み出す使命のある阪大の工学部ですら、そして学者であり研究者である教授ですら、このような発想なのです。

もちろん、これは国際的な学問の競争の中で世界的には極めて異常なことであり、時代に逆行している動きです。世界中の大学ではつぎつぎ新しい専攻が生まれてくる仕組みが作られており、応用物理のような個性ある新しい学科は時代の要請です。海外ではスタンフォードやコーネルなどの一流の大学には小さな専攻があって、応用物理はこのような先端科学を目指す大学には必ずあるのに、サイズが小さいという理由で異なる分野と強制的に合併してしまうセンスに、とても悲しい思いです。

独立行政法人化は、大学が自主的にかつ弾力的に学科の再編をすることができるので、私は大いなる期待をしていましたが、独法化の直前に部局の長のトップダウンによって、新しく弱い学問を壊して古い学問を守るという現実を、見せつけられることになりました。

そんなわけで 年末からすっかり元気をなくしているのですが、負けまいと思います。大晦日の紅白歌合戦の最後は、SMAPが唄う槇原敬之の「世界に一つだけの花」でした。♯♭ナンバーワンにならなくていい。もともと特別なオンリーワン♯♭。草なぎ君のドラマ「ボクの生きる道」の主題歌だそうです。小さな専攻を認めない組織の中にあっても、新しい学問を産み出す「ボクの生きる道」を歩もうと思います。

学問を愛する人達の心、学問を目指す人の心を忘れた専攻再編の強要に、傷つく人たちを想い、紅白では夏川りみと森山良子とBEGINが唄う「涙そうそう」にも、心打たれました。22歳でなくなった最愛の兄への想いを森山良子が作詞し、BEGINが作曲し夏川りみが唄っています。

明石家さんまが主演した「さとうきび畑の唄」もまた、森山良子さんの唄だそうです。沖縄のさとうきび畑の下に眠るたくさんの戦死者。10分18秒のとても長いこの曲を全国を回るコンサートで唄われるそうです。

仕事を離れ、本を読む元気も映画を見に行く体力もなくテレビの前での寝正月でしたが、学ぶことがたくさんあるお正月でした。「世界に一つだけの花」「ボクの生きる道」「涙そうそう」「さとうきびの唄」。今年も負けまいと思います。SK

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