2009年8月のメッセージ

もし民主党が選挙に勝ったら

民主党が政権を取ったら、是非やって欲しいことがあります。それは、教育制度の改革です。いままでの日本の教育制度を抜本的に見直して欲しいのです。人々がそれぞれ互いの違いを認めあい、互いに個性を発揮することのできる人たちを育てる仕組みに変えて欲しいのです。民主党のいまの教育関連のマニフェストは金銭的手当の話ばかりで、肝心の日本の教育の将来ビジョンが書かれていません。自民党と公明党に至っては、自らが進めてきたこれまでの管理教育とゆとり教育の転換について、反省も総括もありません。過去を総括することなく、新たな未来は生まれないと思います。

子供ひとりあたりいくらお金をあげるかではなく、どんな教育制度を構築するのか、そのビジョンをマニフェストを書いて下さい。日本の未来に生きるのは、今の子どもたちと若者です。お金のことばかりしか語れず、肝心の日本の未来のつくりかたのビジョンを示せない政治家を生んだのは、まさに日本の教育制度のせいでしょう。教育を語らないマニフェストは、未来を語らないマニフェストです。マニフェストとはお金をどれだけ使うかの約束ではなく、どれだけお金を使わないかの約束であってもいいと思います。


日本は「資源」のない国であると言われます。石油は取れないし、ダイヤモンドもウランもありません。山と海ばかりで平地が少なく、農作物も畜産物も足りません。しかし、私達の国には、勤勉で有能な1億2千万人の「ひと」がいます。これは世界で10位です。資源や軍備が足りなくても、この国には「人材」があるのです。日本の最大で唯一の資源であり財産は、「ひと」 です。「ひと」がいなくては、国は存在しません。「ひと」を育てましょう。

最近、元気な国にフィンランドとシンガポールがあります。最近、私はこの両方の国を訪問しました。どちらも、資源のない国です。フィンランドは北海道より北にあり、寒くて寒くて暮らすのは大変です。シンガポールは亜熱帯にあり、熱くて熱くて暮らすのは大変です。そしてどちらの国も、人口はたった5百万人です。なんと日本の人口の24分の1です。それでも、この二つの国は日本よりも元気なんです。そしてその理由は、「教育」にあると思います。彼等には、若者をどんな人たちに育てたいのかの「ビジョン」があるのです。

もし1億2千万人の「ひと」が、それぞれが自分で考えて自分で行動し、それぞれが他人と異なる人生・異なる職業を目指し、互いの違いを認めあい互いに助け合い、失敗を恐れず冒険や挑戦をし、他人の失敗を許しあうことができれば、日本はものすごいパワーを持てるはずです。そんな人たちを育てる教育制度を作りますと、マニフェストで宣言して欲しいのです。これは先進国の教育に転換することの宣言であり、これまでの「画一的な教育」からの方針転換を意味します。選挙前にその決意をマニフェストとして選挙民に示して欲しいと願います。

これまで日本の教育を支配し互いに批判してきた文科省と日教組は、私にはどちらも同じ体臭を感じます。どちらも、能力の優劣や興味の違いを認めないのです。同質な人を育てる「画一的教育」を目指してきたように見えます。その結果、格差社会批判の本が売れ、金持ちが糾弾され、変人が嫌われます。酒井法子さんが覚醒剤を使ったことはいけないことですが、これを連日、朝から晩まで民放すべてのチャンネルで繰り返し繰り返し流す画一的報道は、とても危険です。同じ日に、屋敷に侵入してきた外国人と会ってしまったという理由でミャンマー軍事政権がスーチーさんに禁固3年の実刑判決(1年6ヶ月の自宅軟禁に減刑)を言い渡したことや、北朝鮮に拘束されている社員解放のために訪朝している玄・現代グループ会長が北朝鮮での滞在を延長したことや、ロシアの上院議長が色丹島を訪れロシアの旗を立てて愛国観光を振興しようと演説したことや、潰れたはずのGMが25種の新型車を2011年に投入することを発表したこと等々ニュースは山ほどあるのに、すべての局が一人の芸能人のプライベートな失敗を繰り返し繰り返し報道し、他の重大な出来事が掻き消されてしまいます。

赤信号みんなで渡れば怖くない、出る杭は打たれる、長いものに巻かれよ、小異を捨てて大同につく、、、、。

個性を否定する言葉が、日本にはたくさんあります。授業中にたくさん質問をしたり発言をする子供は、先生の授業の進捗を遅らせるので、規律を乱す子供として叱られます。政党の中でも、党のリーダーを変えようというと、規律を乱すと言って袋だたきに遭います。

もっと、自由に、そのクラスの生徒達のレベルやばらつきに応じて、先生が自由に工夫をして教えられるようになれば、日本の子供たちはもっと元気になるはずです。個々の学校やそれぞれの先生に、教えるスピードや教える内容に自由を与えてみてはどうでしょう。もっと「ひと」を信用してみてはどうでしょう。日本の教科書はアメリカの教科書と比べて、あまりに薄っぺらです。この薄っぺらな内容だけしか教えてはいけない、この薄っぺらな内容を全部、皆が覚えなさいと強要するから、日本人がみんな薄っぺらな「ひと」になってしまうのだと思います。

各政党は、マニフェストで地方分権を約束していますが、日本の最大の中央集権は、教育です。地方分権の主旨は、それぞれの現場を信頼して、それぞれの現場に任せるということです。もし民主党が政権を取ったら、教育からまず、地方分権してみませんか。学校現場、クラスの現場に任せるのです。地方や地域、学校やクラスによって抱える問題は異なり、生徒一人一人で悩みは異なります。中央集権的な画一的な教育から、現場に任せた多様な教育に、制度を変えてみては如何でしょう。

私は日本の画一的教育は、大学入試制度から来ていると考えています。大学入試を、中央集権的な共通一次(今のセンター入試)にしてしまってから、日本中の高校生は同じ試験問題を全国一斉に受けるようになりました。これを廃止してみてはどうでしょう。センター入試型の大学受験がなくなれば、高校受験も中学受験も変わります。入試に通るために英語の勉強をするのではなく、英語で映画を見るために、外国の大学で勉強するために、外国企業で働くために、学国を旅行するために、英語を勉ぶようになります。歴史を勉強するのも物理を勉強するのも、大学入試と無関係で勉強するのです。

入試勉強の代わりに、人前で話をする(発表をする)ための勉強(話題を探し方、ストーリーの作り方、魅力ある発表の仕方、緊張せずに話す方法)などを勉強しましょう。歴史の教科書を丸暗記するのではなく、昔の有名な一つの事件をネットや小説などから徹底的に調べて、あるいは現地に行ってその子孫などを捜して、なぜその事件が起きたかを考えてレポート(論文)にまとめてみましょう。それぞれの生徒が自分の興味と目的を持って、個別の勉強をするをのプロジェクト型の勉強と言います。いわゆる夏休みの宿題です。受験のないアメリカやイギリスで生徒達が日常に行っている勉強方法です。大学の最終学年においておこなう卒業研究やゼミもプロジェクト研究です。

大学入試の採点は、個人の名前も卒業学校の名前も隠して、受験番号だけが残った解答用紙に点数を付けていきます。ここに、試験を受けた人たちの「人間性」は消えています。まるで、機械の不良を調べているかの如き無機質な作業です。合否判定はそれぞれの受験生の顔を見て名前を見て卒業学校を見て判断したいのですが、許されません。

私は、一度オクスフォードのカレッジの入試に立ち会ったことがあります。オクスフォードでは、39のカレッジがそれぞれ独自に学生の審査をし、それぞれの合格者は自動的にオクスフォード大学にも合格します。試験は、カレッジのフェロー(教授)が自分の部屋に受験希望者を2,3人入れて、話をします。もちろん高校での内申書が必要です。人の顔を見て話をして合否を判断する国と、人の名前を隠して受験番号と解答用紙だけ合否を判断する国と、どちらが、優れた「人材」を見つけて育てることができるでしょう。教育制度、特に入試制度の転換が必要だと思います。

アメリカでもセンター入試があります。大学入学にはSAT、大学院入学にはGRE、外国人が入学するためにはTOEFLの試験を受ける必要があります。これらは、その大学の勉強についていけるかどうかの資格審査のようなもので、点数の高い順に入学を許可されるのではありません。これをクリアして、内申書や推薦書あるいは面接で入学のオファーが出されます。名前を見ずにひとを選ぶことはあり得ません。

日本に「共通一次」試験の制度ができたとき、私はSATと同じ運用がなされることを期待しました。しかし、運用は全く異なりました。少しでも高い点数をとった方が望む大学に行ける制度に変質したのです。これはそれぞれの大学、特にランキングの高い大学の人たちの教養とモラルの低さによるものです。どんなにいい制度でも、使う人によっては全く形骸化させることができるのです。

なぜ、日本の教育制度は先進国になれないのか。それは、現場に対する信用・信頼がないことが理由です。もしひとの顔を見て出身高校を知れば、ズルをすると思うのです。現場を信用・信頼していないので、現場に任せないのです。日本がいつまでも中央集権を維持している理由は、地方を信用していないからです。この「ひとを信用しない文化」を変えない限り、道州制にしても地方分権は成功しないでしょう。かつてのソビエト連邦や、中国、北朝鮮と同じです。この文化を変えるためには、結局は教育から始めるしかないのです。「人を信頼し人の違いを認める」人を育てる教育に変えなければ、この国から「人材」は育ちません。民主党がもし選挙に勝ったなら、ぜひ教育を改革してください。そのためのビジョンがマニフェストにないのは困ります。





えっ?もし、自民党が勝ったら?

その時は、文中の「民主党」を全部「自民党」に置き換えて読んでください。SK

写真は南紀白浜、円月島の夕日@研究室LaSIEのサマー・スクールにて

Copyright © 2002-2009 河田 聡 All rights reserved.