もう少し日本の借金が減るまで、もう少し失業者の数が減るまで、もう少し零細企業がいまの経営危機から脱却できるまで、科学者は辛抱してはいけないのでしょうか。
戦後の焼け野原から、日本には素晴らしい科学がたくさん生まれました。私は「お金がなければ、日本の科学技術が後れをとる」というような脅迫的なメッセージを子供達や一般の人たちに与えたくありません。
世界最高速のスーパーコンピュータは、確かにアメリカのような国では戦争に役に立ちます。ロケットの軌道を計算し補正し、敵のミサイルに迎撃するためには、並のスパコンで計算していては間に合いません。戦争におけるシミュレーションに、国策スパコンは必須です。でも基礎科学への応用はこの新しいスパコンに頼らず共、これまでのスパコンを使って、あるいはもっともっと頭を使って研究する手もあります。
そもそもスパコンという発想は1970年代のものであって、今ではすこし時代遅れかもしれません。世の中はすでにクラウドコンピュータなどの新しい概念に移ってしまっています。遅れて出てきた「戦艦大和」が、米軍の戦闘機にあっという間に沈められた映画のシーンを想起します。今回のスパコンの寿命も、おそらく非常に短いことでしょう。だから早く作らないといけないという理屈になるのです。
若い方々ならスパコンから戦艦大和を想起されることはなく、ターミネーターのスカイネットやイーグルアイやマトリックスなどの映画を思い出されるかもしれません。セキュリティーに詳しい方は、コンピュータ機能を一カ所の一台に集中させることは危険であると主張されるかもしれません。アメリカ国防省が開発支援したアルパネット(いまのインターネット)以来、情報管理は集中から分散へ転換しています。スパコン以上の検索速度のグーグルのコンピュータだって、その存在場所がどこなのか分かりません。
コンピュータは民間レベルで著しい進歩をしています。ミニコンからマイコン、そしてパソコンからネットコンピュータ、MS-DOSからUNIX、Linux、そしてgoogleやiPhoneなど、その進化は留まるところを知りません。日本の科学者はどの程度、このコンピュータの進化に貢献してきたのでしょうか。求めるべきお金は、スパコンの建設費よりも日本発の新しいコンピュータ・サイエンスを創造させる人材を生む文化・教育環境の整備費かもしれません。
需要のない関空が事業仕分けされて予算が付かなかったのも、当然なのかもしれません。乗客に見限られた関空が本当に必要なのかどうか、意地にならずに素直に審議していただきたいと思います。日本中にいま、飛行機の飛ばない空港が溢れかえっています。いっそこれらのがらがらの空港には沖縄の米軍基地を引き受けてみることを考えてみてもいいかもしれません。
これは、危険すぎるメッセージ!?
でも、このようなことを色々考えさせられる今回の刷新会議・事業仕分けのお祭りは、なかなか良くできた「脳を鍛えるトレーニング」です。他の仕分けについても、まずは、もし今の予算が無くなったらどうするかを考えてみましょう。そうしたら、色んな新しいアイデアが生まれるかもしれません。そしてどうしても答えが見つからなければ、その時はもっとうまく相手を説得できることでしょう。SK