2011年1月のメッセージ

災い転じて

「今月のメッセージがまだアップされてませんよ」との指摘を受けました。喪中につき、新年のご挨拶と今月のメッセージを遅らせて失礼しています。



というのは、
すみません、
嘘です。
2年続きの喪中は本当なんですが、年末から「リクルート事件・江副浩正の真実」(中公新書クラレ、2010年8月)、堀江貴文「徹底抗戦」(集英社文庫、2010年10月)、郷原信郎「検察が危ない」 (ベスト新書、2010年4月)、三井環「ある検事の告発」(双葉新書、2010年12月)などを読みふけってしまい、検察特捜部の恐ろしさに気分がとても悪くなってしまっていたのです。その検察特捜部が新たにターゲットに定めて狙い撃ちしたものの二度にわたって不起訴になった人を、
「強制」起訴することができるという乱暴な組織が存在することにも寒気を覚えました。そして、その「強制」起訴された昔の仲間を正月早々から非難しているソーリ大臣をテレビで見て、さらに悲しくなりました。
画面に映る
ソーリ大臣の表情には傷つく人に対する思いやりとか優しさとか暖かさがなくて、
暗澹たる気持ちになりました。

というわけで、晴れやかなるお正月にふさわしい元気の出る楽しいメッセージが書けなくなってしまっていたのです。

そして、幕の内が明けました。もう、お正月は終わりです。

それじゃあ、暗くてじめじめして悲しくて怖い話を書いても構わない!?




年が明けて、理研のカフェテリアで昼食中のことです。研究員の一人が話題の中心になっていました。

何があったの、いつの話? 
お正月のことです。
どうしたの?
年末に羽田から島根に家族で帰省しようとしたのですが、大雪のせいで飛行機が飛ばなかったのです。予定を変更して、新幹線と在来線で帰りました。
鉄道旅行もたまにはいいんじゃあない。車窓に雪景色が見えて子供さんも喜んだでしょう?
雪で鉄道がストップして、列車の中で2晩も過ごしました。
そういや、ニュースで大雪のために鳥取県が交通がストップしていると言ってたよね。
お正月は列車の中で迎えました。
お正月のテレビは売れない芸人達の大騒ぎ番組ばかりで、知らなかったよ。
何百人もの人が何台もの列車の中に閉じ込められて、そこでお正月を迎えたんです。

彼は新幹線で東京から岡山まで行き、そこから伯備線というローカル線で鳥取県の米子へ出ようとしたそうです。伯備線は単線だそうです。そこに何編成もの列車が立ち往生したそうです。研究員を含めて赤ちゃん連れの帰省客が大勢閉じ込められて、2日2晩。自衛隊もヘリコプターも一度も救出に現れることなく、電気も途切れて携帯も途切れて、ホッカイロもすぐに途切れて、、、。

それはひどい。リニア新幹線など要らないから、エコポイントも要らないから、相続税の増税も要らないから、オザワさんの離党も要らないから、何も贅沢は言いませんから、カンソーリさん、この人達を助けてあげてよ。

ね、暗い話題でしょう。

ところが、研究員の話は楽しくて明るいのです。

なんと救助の除雪車が脱線したんですよ。それでさらに除雪が遅れたんです。
除雪車が除雪した雪がポイントの上に崩れて、それでさらに作業が遅れたんです。
マスコミは全く取材に来ませんでした。雪で来れなかったんでしょうね。お正月だったからお休みだったのかもしれません。
雪を取るためかパンタグラフを時々架線から離して動かすので、その度に停電して照明が切れてました。
携帯電話を充電するのはトイレのコンセントでした。皆が順番に充電するのだけれど、スマートフォンの充電には時間が掛かりますね。
電車の座席で2晩寝ました。
お正月は電車で迎えました。
乗客のみんなは辛抱強くて、トラブルもパニックも起こさずに(赤ちゃん以外は)、路線の再開を待ちました。

希有な体験の話に、皆は目を輝かせて聞き入りました。
ディズニーランドか海外旅行での武勇伝を聞くようで、うらやましい気分!皆はいつの間にか、
列車の中の場面を想像していました。誰も助けに来ない中で正月を迎え希望を持って待ち続ける数百人の人たちが目に浮かび、気がつけば彼の話は
心温まるいい話に変わりました。

今の日本はまるで雪に閉じ込められて、救出してくれるべき除雪車までが脱線してしまったの如きです。マスコミはお正月気分、お祭り騒ぎに終始しています。赤ちゃんを抱えて伯備線の列車の中で途方に暮れる人の集団は、今の日本の人たちそのままように見えるでしょう。でもそこに生きる人たちは、実は結構明るくて楽しんでいるのです。

雪に閉ざされた列車に乗っている人たちにも、いつか雪が解けて春が来るはずです。神戸の震災でも若者のボランティアが活躍しました。

話題は変わって、日本で一年に生まれる日本人ポスドクの数と日本で一年に生まれる大学・研究所の正規ポストの数の比は、6対1だそうです。ポスドクの6人に5人は、大学・研究所にポストは得られないことを意味します。ポスドクの皆さんは飛行機が飛ばなかったので伯備線に乗ってしまい、閉じ込められて正月を列車の中で迎えた人たちです。自衛隊もマスコミもやってきません。でも、惨めでも悲惨でもなく、明るくて楽しい物語の主人公です。皆が憧れる武勇伝を、自ら体験をしているのです。雪が解けたら何をしようか、ゆっくりと考えてください。

大阪・中之島で2年行ってきた科学者維新塾を、今月から東京・お茶の水で開催することになりました。理系博士を取ってポスドクになって、明るき楽しい未来を見つける人たちの塾です。関心のある方は、お問い合わせください。今年も大いに楽しみましょう!SK

追記:ところで、列車の中で家族で正月を迎えた研究員は、来月、大学にポストを得られます。いい話やんか。
なお、この話は少し脚色しています。まあ、いいですよね。

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