2012年4月のメッセージ

防音壁

今年の連休の4月29日に関越道で深夜ツアーバスが防音壁に激突し、7人の方が亡くなられるという悲惨な事故がありました。バスの真ん中にナイフのように防音壁が刺さっている事故現場の写真はあまりに悲惨で、亡くなられた方達のご家族のショックを思うと言葉が見つかりません。

今を遡ること7年、2005年の6月に私はこの今月のメッセージでJR西日本の電車脱線事故について書きました。題して「107人を殺した人たち」。ここにその一部を再録します。忘れてしまった方も多いかもしれませんが、当時のマスコミのはしゃぎ振りが垣間見れます。

誰が、107人の命を奪ったのでしょうか?マスコミは最初、若い運転手を犯人に仕立て上げました。JRは、置き石を犯人にしようとしました。その後、マスコミは事故当日にボーリング大会をしたりゴルフコンペを続けたJRの人たちを、激しく責めました。次には、列車ダイヤを厳密に守らせようとするJRの姿勢、それから鉄道の過密ダイヤと高速運行、そしてATSという安全装置を付けていなかったJRの安全対策に対する姿勢を、責め始めました。このあたりから、いったい誰が真犯人なのか分かりにくくなってきました。

私がメッセージで主張した犯人は、マスコミとは異なりました。私が107人の命を奪ったと思ったのは、
線路のカーブの直線上にかぶりつくように建っているコンクリートの塊、すなわち電車が激突したマンションでした。あんなところにマンションさえなければ、電車が仮に何らかの理由で脱線しても107人の方々が亡くなられることはなかったはずです。ここにマンションを建てようと計画した人、実際に建てた人、この場所にマンションを建てることに建築許可を与えた人など、このマンションに関わる人たちへの批判は全く出ることはありませんでした。

高速ツアーバスの事故に対しても、マスコミの犯人捜しが始まりました。まずは運転手が批判されます。彼の人格、出生、元の仕事などが詳しく語られます。JR西日本の事故のときと同じです。逮捕されて連行されている映像が、テレビに繰り返し映ります。そして、批判は次にバス会社とその社長に移ります。運転手が一人しかいなかったこと、値段が安すぎること、この業界での経験が浅いこと、かつて業務指導違反があったこと、等々。これもJR西日本の事故の時と同じパターンです。そして、運行距離が67km以下では運転手が1人でも良いことや、ツアーバスは届け出制で良いこと、高速道路の制限速度が甘いことなど、規制緩和したことへの批判が始まり、規制・規制へと議論は進むことでしょう。JR西日本の事故のときと同じです。

運転手がどんなに気をつけていても、事故は必ず起きるものです。雨が降ると視界が悪くなり、道路は滑りやすくなります。突然突風が吹いてハンドルを取られることもあるでしょう。鳥が窓ガラスに激突して、視界を失うこともあるでしょう。前の車がタイヤが石を蹴り上げて、飛んでくることもあるでしょう。暴走族が迫ってきて、平常心を失うこともあるでしょう。長旅に疲れて眠くなることもあるでしょう。風邪を引いていて集中力を保てないことだってあるはずです。くしゃみをすると一瞬、眼をつぶってしまいハンドルを取られるかもしれません。誰しもかつて新米運転手だったこともあったはずです。たとえ運転に熟練していても、走っている最中に車が故障して、ブレーキやアクセルが思う通りに効かなくなったり、ハンドルがロックされてしまうことだって絶対ないとは言えません。突然、胃や胸がが痛くなることだってあるでしょう。高速道路には危険がいっぱいなんです。運転手が2人いても、認可制にしても、バス会社の社長が良い人でも、バス代を高くしても、経歴立派な運転手さんであっても、事故はなくならないのです。事故を0にすることは不可能です。

大切なことは、たとえ事故が起きても、被害が最小になるような道路を作ることです。

今回、もし端がカミソリのように切り立った防音壁がなければどうだったでしょうか。コンクリートの塊のマンションがなければという仮定と同じです。もしあの防音壁がなければ、結果は違ったのではないでしょうか。

防音壁をあの場所に付けることを提案した人、あの場所に防音壁を付けることを許可した人、あの場所に防音壁を付けた人に、ぜひ尋ねたい。

映像を見る限り、道路の横にはかなり広い空間が広がっています。その外側には道路が見えます。インターチェンジの両側に住宅地はありません。カミソリのような防音壁を、なぜあそこに設置しなければならなかったのでしょうか。どうしてもあそこにカミソリ防音壁がなければならなかったのでしょうか。カーブする線路の横に、どうしてもあのマンションがなければならなかったのでしょうか。

バスでなくても乗用車でも、あのカミソリ防音壁にぶつかれば必ず真っ二つになります。あの防音壁はどうしても必要なんでしょうか?彼等には、説明をする責任があると思います。

世界の中で唯一、日本の国の高速道路には圧倒的に多くの防音壁が設置されています。その最初には必ず尖った端があります。日本の防音壁は道路の車線のかなりぎりぎりに設置されています。その姿はとても醜く威圧感があり、また視界を妨げます。もし騒音が気になるのなら、グリーンベルト地帯を道路の外側に広く設けるべきでしょう。日本独特の防音壁は、防音壁を作る業者と国土交通省そしてその天下り団体である道路公団(今は名前が違う)が癒着して、金儲けのために防音壁を作っている、なんてことはないでしょうね。

日本の国は先進国で唯一、街中至る所に電柱が並んでいます。これも景観と安全を無視して、電柱屋さんと役所が癒着した結果じゃあないかと疑ってしまいます。私は以前、狭い道を自転車で走っていてこの電柱にぶつかり右鎖骨を折り、最近、右眼の眼内レンズが眼の中で落ちて視力を失いました。狭い道路には車道と歩道と自転車レーンの区別はなく、自転車は人や車を避けるたびに電柱にぶつかりそうになります。電柱は狭い道路上には必要なんですか?普通の国のように、地下に埋めてはダメなんでしょうか?

国土交通省の役人天国である我が日本は、どこかしこに防音壁を付け、どこにでもマンションを建てて、どこにでも電柱を立てます。そして、どこにでもスーパー堤防を作ります。予想を超える高さの津波が押し寄せたとき、巨大な堤防がその内側の人を水没させる危険性や、景観と環境の破壊など全く気にならないのです。

私は防音壁が殺人者だと思うのです。マスコミはそうは思わないようですが。

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