2013年8月のメッセージ

マイナンバー


日本が鎖国を解いて明治になり世界と付き合うようになると、西洋の文化や社会制度、概念、科学技術が日本に入ってきました。そしてそれらを説明する言葉が必要となりました。日本人はそれまで日本語と中国語(漢字)しか使えませんでしたので、たくさんの和製中国語が創られました。福沢諭吉が訳したと言われる「経済」や「演説」、夏目漱石の「価値」や「新陳代謝」、西周が訳した「哲学」などは、これまでの日本に無い概念でした。中国に逆輸入された言葉も多く、「科学」や「自由」、「概念」も日本で生まれた中国語だと言われています。中国政府が今の中国を語るに欠かせない「人民」「共和国」「革命」「解放」なども和製中国語だったとか。

新しい概念を表す言葉をどう訳すかはとても慎重でなくてはなりません。その命名には責任があります。それなのに、世の中にはなんとくだらない訳語が次々と生まれてくることか。最近どうしても見逃すことができないのは「ノンステップバス」というバスです。「ステップ」のないバスって一体どんなバス?私の住む地域のバスにこのサインがつき始めて、このバス会社にはなんて無教養な人がいるのだろうと思っていましたが、どうやら全国規模でこの言葉が使われているようです。ということは、誰かがこの言葉を標準語として定めたことになります。国が関わっているのでしょうか。

「step」とは辞書で「an act or movement of putting one leg in front of the other in walking or running」すなわち、最初の「一歩」です。ロンドンの地下鉄に乗ると「Mind your step」というアナウンスがありますよね。「stepに注意」です。一歩も踏み出せないバスとは どんなバス? 意味不明な和製英語です。おそらく段差の少ない低床バスを意味しているのだと思いますが、最初の一歩(「step」)がなければ、車には乗れません。英語でも日本語でも通じない和製英語です。この呼び名を発明した人には、大切なことば(英語と日本語と中国語)を冒涜したのです。欧米ではこのようなバスは「Accessible」と書かれています。アクセスできる、すなわち車椅子もお年寄りもバスの中にアクセスできるバスです。

英語教育は文科省の担当ですが、「ノンステップバス」の命名は文科省ではないでしょう。きっと運輸省(今の言葉では国土交通省)による命名、あるいは承認か推奨だろうと思います。日本で使われる交通に関する英語はほとんどが、英語圏で使えない和製英語です。運輸省、国土交通省、警察、陸運局などの英語レベルは、明らかに小学生以下で間違いだらけだと言わざるを得ません。ノーカーデー、マイカー、ナンバープレート、ハンドル、クラクション、バックミラー、サイドブレーキ、ウインカー、フロントガラス、すべて通じません。バイク、ミニバイク、 オートバイ、 オープンカー、ベビーカーも英語では違う意味になります。鉄道では、グリーン車とか一日フリー券とか1番線ホームとかも通じません。

酷い日本語訳の和製英語に苛々していたら、実は総務省系の英語もかなり酷いことに気がつきました。総務省とは元郵政省(郵便局)と元自治省が合併した役所(形だけ)です。まずは、元郵政省。電話関係が酷い気がします。フリーダイヤルはtoll free numberでしょう。 キャッチホンって何?タウンページは日本人でもわからない。もう使わなくなりましたが、 ポケベル。マナーモードも意味不明です。恥ずかしい。BSも通じません。どうしてこうも次々といい加減な言葉を創るのでしょうか?文科省が指導したという話を聞いたこともありません。

そして、私が今もっとも心配しているのは日本においてもようやく導入されるSocial Security Numberです。必ずしもアメリカのSocial Security Numberと同じではないのですが、国民が納税や年金・保険など国からのサービスや義務を授受する時に使う個人ごとの番号のことです。いろんなサービスを受けたりいろんな義務を果たすときに、役所ごとに異なる番号を与るのではなく、番号を統一化しようと言う考えです。それぞれのサービスを受けるときに、そのたびに住民票を取得して提出したり書類に捺印するのではなく、ディジタル化します。日本においては、これを反対する市民団体の活動とマスコミのためにこの番号制の導入は世界から非常に遅れました。反対している人の中にはクレジットカードやネットビジネスなどで民間企業には個人情報を提供しつつ、国の制度にのみ反対してこられた人が多くおられます。それこそ税金の無駄遣いであり、不正受給などの温床でした。

そして、私が心配しているのはこの番号が「マイナンバー」と呼ばれそうなことです。またですか、総務省さん。おかしな英語は創らないでください。英語を使うなら欧米人にも通じる正しい英語を使ってください。そして日本人にも通じる英語をお願いします。恥ずかしくなく中学の授業で使える言葉をお願いします。

人は「言葉」に感じ、怒り、笑い、涙します。日本は言葉をもっと大切にしてほしいと願います。サンディエゴから。


Copyright © 2013 河田 聡 All rights reserved.