2014年正月のメッセージ

『自助論』

iPadはすでに3台目なのに、今なおほとんどは紙に印刷された書籍を読んでいます。新聞も電子版会員になったものの、飛行機とか電車の中以外では、今も大きな紙面を広げて読みます。論文もネットで見つけてから、紙にプリントして読みます。若者はきっとそうはしないのだろうと思います。あるいはそうしないから、新聞も本も読まないのかもしれません。

日本で最初の電子書籍、村上龍の「歌うクジラ」以来、何冊も電子書籍を購入をしてはみたのですが、どうしても紙媒体の本の方に手が行きます。ぺらぺらとページをめくれない、めくったときの立体感がない、電子栞がわかりにくい。いろいろ理由はつけれるのですが、結局は、テーブルに積み上げられたり置き捨てられないことが問題ではないかと思います。書籍が行儀良く整理されすぎているのです。書棚に片付けらた本や雑誌は、わざわざ取り出しては読まないのです。「散らかす」ことの大切さ(?)を知りました。野口悠紀雄さんが『超整理法』で、片付けてはいけない、整理してはいけないと主張されておられたことを思い出しました。

なかなか活用されないiPadを可哀想に思い、再び何冊か電子書籍を買ってみました。

サミュエル・スマイルズの『自助論』(新訳完全版)は、わずか300円でした。実に安い。この本は、1859年にイギリスで発刊、1971年(明治4年)に『西国立志編』と題して中村正直が翻訳しました。当時100万部を売り、同時期の福沢諭吉の『学問のススメ』とともに超ベストセラーでした(ちなみに学問のススメの電子書籍は無料です)。どちらの本も、貧富や名誉、地位は生まれながらに決まるものではなく、自らが努力をして自らが学習をしそして辛抱して得られるという考え方において共通しています。諭吉はそれを『独立自尊』と表現し、スマイルズは『Self Help(自助)』と表現します。

「自助』のこころは、明治時代よりも百数十年過ぎた平成の今こそ必要かもしれません。人々は国任せ、他人任せになり、自分で決断し行動することが少なくなってきています。あるいは、国民が自分で判断し自分で責任をとって行動をすることを国が許さなくなっています。ありとあらゆる保護と規制の網を被せます。

スマイルズの『自助論』は次の文章から始まります。

「国家の価値とは、結局それを構成する国民の価値である」
「我々は制度を重視しすぎ、人間を軽視しすぎた」

国の余計やお節介は国民の能力を奪い、国力を落とすというのです。

「他の誰かに手をさしのべることは、たとえそれがどんなに良いことであったとしても、本人の自己解決への気概を奪ってしまう」
「どんなに優れた社会制度でも、個人を真の意味では救ってはくれない」
「社会制度にできることがあるとすれば、人々を放っておくことぐらいであろう」

スマイルズや諭吉が今の日本を見たなら、なんとお節介な国だと仰天することでしょう。年金、健康保険、検定教科書、大学入試、賞味期限、耐震補強、車検、薬事法、、、、。そこには独立自尊も自助論のこころはありません。その結果、脆弱で依頼心の強い人たちの国になってしました。

お正月の三日目に東京有楽町のゲームセンターで火事がありました。JR線に近かったので東海道線、山手線、京浜東北線が不通になりました。特にJR東海は、新幹線を新大阪まで全線不通にし、5時間で106本を運行を取りやめました。JR東海の新幹線車両基地は有楽町よりもすっと新大阪側にあり田町あたりで本線と合流しています。だから、品川駅での折り返しは可能だったと思います。だけど、そうすると別のトラブルがいろいろ起きることを恐れたのでしょう。電車を走らせなければ、少なくとも新幹線の事故は起きません。しかし、たった一人の死者も出ない火事で、正月の帰省から帰る予定の40万人が帰宅できなかったのです。その中には病気の人や体の不自由な人や赤ちゃんや緊急の用事の人たちが大勢おられたことだと思います。しかるべき時に、判断と行動をせずに多くの人に迷惑を掛けたといわれても仕方がないと思います。自分で解決するこころがJR東海にはないのでしょう。最近では、台風や大雨大雪の予報が出るだけで、雨が降る前から運行を取りやめるようになりました。

「昨今、日本人はちょっとしたリスクもとらない、自分で問題解決する自助のこころがない」と友人のフランス人に話しました。そうしたら、「それは世界的現象だよ」との返事。「世の中が満たされて、平和ぼけしてるんだよね」、「無理して頑張ることもない。すごく欲しいと思うものもない、だからリスクをとらないんだ」。人は満たされると努力をしなくなり、冒険をしなくなり、そして依頼心が強くなる、というのです。

再び『自助論』から

「どんなに厳しい法律でも、怠け者を働き者にしたり、浪費家を倹約家にしたり、大酒飲みを禁酒家にしたりすることはできない」

この本で繰り返し説かれることは、結局は『学問のススメ』です。自ら努力をせよ、自ら勇者であれ、自ら品格を持て、です。国が、自助のこころを蝕んでいます。

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気まぐれから始めた科新塾はついに6年目に入りました。そこで一番私がこだわっているのが塾生諸君の『独立自尊』の心を育てることです。安定した大企業や大学に雇われる(助けられる)ことを目指すのではなく、自分の人格、才能、ネットワーク、そして資格、知識、技術を高めて、自分自身の人事権は自分で持つ「自助」の心を育てることです、最近は、塾生が自分たちで講師を探し、自分たちで企画をし、自分たちで討論をしています。選んできた講師の方々も、みんな魅力的で素晴らしい人たちです。自らリスクを負って新しいビジネスモデル、新しいライフスタイルを切り拓いておられます。

『自助論』のきっかけは、イギリスで若者たちが始めた勉強会がきっかけだったとか。コレラ患者用の病院として使われていた部屋を借りて、夜に若者同士で勉強会をしたそうです。少しでも知識のあるものが知識のないものに教え、仲間を向上させるとともに自分も向上させる。そこで話した内容がこの本になったそうです。同じ時代に大阪では緒方洪庵が適塾を開き、それが科新塾のモデルです。塾は塾長(私)が助けるのではなく、塾生たちの中から選ばれた塾頭とその補佐をする塾生たちが自らを助けていくのです。私は後ろでニヤニヤしているだけ。これを諦めることなく継続することだけが私の役割だと思っています。

今年もよろしくお願いします。

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