2014年12月のメッセージ

長い休み


上方落語に「浮かれの掛け取り」というネタがあります。昔は毎回の現金払いよりもツケ払いが一般的で、五十払い(の つく日に取り立てて支払う)とか節季払い(季末毎に払う)とかが普通でした。とくに大晦日には、一年間の回収できなかったツケをまとめて集金します。落語では長屋の熊五郎が次々とくる掛け取りをあれこれと騙して追い返します。ところが、この年末の大騒動の掛け取りが最近はなくなってきたようです。ことしは 大晦日より5日も前の、26日に仕事納めをします。いまは、役所の御用納めと同じ日に仕事納めにする会社が多いようです。御用始めが1月5日ですから、正 月休みは一週間を遙かに超えて実に9日間に及びます。「年が越せない」というのは、もはや死語です。皆さん、平和にのんびりと年末を過ごせるようです。し かし、日本が止まっているこの9日間にも、世界はめまぐるしく動いています。経済は毎日毎時毎分毎秒、確実に変化しています。


か つて世界の人たちからエコノミックアニマルと呼ばれて、尊敬も軽蔑もされてきた働き蜂の日本人は、いまや世界一の祝日数を誇る働かない国の人たちになりま した。昔は土曜が半ドンであったのが完全土日週休2日になったことに加えて、国民の祝日は増え続けています。正月9連休や4−5月のゴールデンウイークに 加えて、毎月毎月の国民の祝日(来年は山の日もできるらしい)とお盆休みがあり、そのたびに日本の経済は停止し、世界の競争から取り残されます。特に国民の祝日をずらして月曜に休みを集中させた結果、週の初めにその後の一週間の戦略が立てられなくなっています。


大学も、今や休みだらけです。月曜は休みが多すぎて、授業が成り立ちません。他の国にはないこの祝日の多さによって、学生のレベルは低下します。アメリカでも中国でも学生は土日に勉強をしますが、日本はどうでしょう。


私は日本の経済力の低下は日本の祝日が多すぎることが一因だと思っています。日本の学生の学力の低下も日本の祝日が多すぎるからだと思っています。企業で働く人たちがそれぞれ個別に休みを取るのならいいのですが、会社全体を休業すると世界のライバル企業に比べて、明らかに不利になります。売上げや利益は、営業日数に比例するのです。グローバル企業において日本での営業日の少なさは致命的な敗北をもたらしています。大学の休日数の多さも、グローバル時代における日本の教育の敗北です。


日本の祝日が増えれば、日本の観光地やショッピング業界にはプラスだと考える人たちがいます。内需拡大につながると言うわけです。経済構造を内需だけしか考えられない人たちの発想です。日本にも好景気な産業があります。コンビニエンスストアです。年中無休で24時間営業だからです。営業時間が長いと、売り上げが増えます。当たり前のことです。工場を止 めたり会社を閉める日数が増えると売り上げが減り、その結果社員の給料は下がります。その結果、消費は増えず内需は拡大しません。


日本は国民の祝日を減らすべきです。個人が自由に取れるようにして、企業の一斉休業は減らすべきです。


日本の経済停滞や日本の若者の学力低下は、このような国のお節介な政策や規制が生み出したと考えます。政府は国の安全保障や重要な政策だけに集中して、休日の設定などはそれぞれの人や企業に任せるべきです。鎖国政策による内需だけで生きるというガラパゴス経済社会からTPPへ参画してグローバル経済社会への 転換を目指すのなら、政府は民を信頼して制度や規制を減らすことです。


老子は言います。


「聖人云、我無爲而民自化。我好靜而民自正。我無事而民自富。我無欲而民自樸」(老子57章の末節)


訳すなら、


指導者が何もしなければ、民衆は自ら育つ。役人が静かにしていれば、民衆は自らを正す。政治家が何もしなければ、民衆は自ら努力をして豊かになる。役人が何も欲せなければ、民衆もまた素朴に生きる。


日本人の依頼心は、国(政治家、役人)が生み出したのです。


官僚になると、新しい制度を作りたくなります。浪人が刀を持つと、試し斬りをしたくなるのと同じです。総理大臣になると、解散をしたくなります。しかし、辛抱してください。老子は言います。聖人は民衆を信頼し何もしないという勇気と能力を持ちなさい、と。


「以正治國、以奇用兵、以無事取天下。吾何以知其然哉」(老子57章の導入節)


国を正しく治めるために、様々な政策やプログラムを作りたくなるでしょう。しかし何もしないのがいいのです。聖人は余計なことをしないのだということを、兵法家であった老子が教えてくれているのです。


来年には、さらに「山の日」という祝日を作るそうです。私は国の祝日になど惑わされることなく、来年も祝日には思い切り働いて平日に自由に休みたいと思います。年内は31日まで精一杯働いて、その後は穏やかなお正月を迎えます。実は、喪中なんですが、、、。


追記:
1.関連話題を月曜がお休み?」と題して以前に今月のメッセージに書きました。
2.老子の57章は、福沢諭吉の「独立自尊」「国を支えて国に頼らず」、サミュエル・スマイルの「自助論」「社会制度にできることがあるとすれば、人々を放っておくことぐらいであろう」と同じメッセージです。福沢諭吉については「壱万円札の人」、サミュエルスマイルについては「自助論」と称して、今月のメッセージに書きました。

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