2015年10月のメッセージ

「貧者の高速道路


最近、お年寄りが高速道路を逆走したとのニュースを良く見ます。それも10km、20kmもの距離です。自殺目的ではないですよ。 本人が逆走していることに気付かなかったのです。一般の人々の感想は「高齢者は車の運転を控えた方がいい」でしょうか。実際、テレビのコメンテーターたちはそんな論調でした。車が必要だから車に乗っておられるのですから、そんな感想を言っても解決になりません。少しましな感想は「高速の出口には進入禁止の標識を出すべきだ」で しょう。残念ながら、標識を出しても効果はあまりないと思います。日本の道路には、よく分からない案内や交通標識がそこら中にあるからです。皆が交通標識 を信用しなくなっています。私がよく通る道路には、中央分離帯に大きな「進入禁止」の標識(赤い丸に斜めの線)が立っています。これは中央分離帯の反対側 車線に入るなという意味です。はじめてこの交差点に来た車の運転手は、皆どきっとします。標識が、まるで直進を禁止しているように見えるのです


いつの頃からか、赤信号の下に上向きの緑の矢印の信号がつく交差点が増えてきています。これは、赤信号なのに直進しろという標識です。世界の常識では、赤では交差点に進入してはいけません。ただし、右向きあるいは左向きの緑の矢印が点灯していると、直進はできないけれども右折あるいは左折ができます。矢印は普通の赤や緑の信号より細くて見えにくいので、普通は交差点の近くに来てそれに気づきます。そして、赤信号に上向きの緑の矢印です。その意味が分からないので焦ってしまい、とても危険です。赤信号の下に直進、右折、左折の三つの緑の矢印が点灯する交差点すらあります。それなら普通に「青」ですよね。


私 の家の近くの自動車専用道路(新御堂筋、中央環状線)では「奈良で渋滞5キロ」という電子案内が出ます。その先には奈良市があるので、誰しもが奈良で渋滞 しているのだと思います。ところが そのずっと手前の茨木市に、奈良という町名があるらしいのです。茨木市民ですら、奈良という地名があることなど知りません。なぜ、地元民すら知らない地名 での渋滞情報を出すのか、理解できません。


そんなわけで、日本の交通標識を誰も信用しなくなってしまっているのです。


さ て、なぜ高齢者が高速の出口を入り口と間違えて逆走するのかをもう一度考えてみましょう。出口から車が並んで次々出てくれば、さすがお年寄りでもこれは入 り口ではないと気付くことでしょう。あるいは車が次々と出てくれば、物理的に邪魔になってそこから進入することはできません。お年寄りが出口から侵入する ときは、出口に車がいないはずです。進入した後も道路は空いていて、快適に逆走できたのではないでしょうか。高速道路は実は空いているのです。


高速道路とは行きと帰りにそれぞれ少なくとも2車線以上のレーンがあり、それらが中央分離帯で分けられています。進行方向を逆にして一方通行の道路が2 本、平行して並んでいると考えることができます(アメリカでは往復の2本は互いに相当離れたところを走っていることもあります)。高速道路を逆走した方 は、その片側の一方通行の2車線を往復対面の道路だと勘違いしたのではないでしょうか。日本では片側に1車線しかない高速道路がたくさんあります。将来は少なくとも片側2車線になるはずですが、その片側だけを工事して対面道路として開通させています。こんな道路の存在も、高齢者に勘違いさせる一因でしょう。


さて、高速道路の多くは一方は空いていて他方は混雑しています。朝は都心向けが渋滞していて逆方向はがらがら、夕方はその反対です。連休や週末の初めは地方向けが渋滞し、逆はがらがらです。休みが終わるとその逆です。一方が渋滞しているのに他方はがらがらというのは、道路の利用法として不経済です。アメリカでは行き帰りの車線数が朝と夕方で変わる道路が多くあります。サンフランシスコのゴールデンゲート・ブリッジは合計6車線ですが、朝晩で往復の車線数が4車線と2車線に変られていたと思います。最近では中央分離帯を移動させる機械を持つ車もあります。自動車専用道路でなければこのような車線数の変更が日本の地方都市にもありました。いまでもあるのでしょうか。こうすれば渋滞が緩和されて、エネルギーの節約と事故の減少に役立ちます。赤信号と緑の矢印の同時点灯よりも安全かつ必要だと思います。


中国ではついこの間まで(といっても20年近く前の話ですが)道路に中央分離帯はなくて、行き帰りのレーンの境は勇気あるドライバー達によって自然に決まってました。これも効率的です。


この話は、野口悠紀雄さんの「超超整理法」(講談社、2008)を読んでたら、「貧 者の高速道路」という比喩で整理の仕方の話がでてきて、気づきました。ついでながら、日本の郵便屋さんは郵便を家のポストに配達してくれます。しかし、ア メリカでは家のポストに三角の旗を立てておけば、郵便屋さんは配達するだけではなくポストに入れたはがきや手紙を持って行ってくれます。郵便屋さんは行き 帰りに集配の仕事をするのです。日本のポストは貧者のポスト、一方通行です。郵便局も株式会社として民営化するなら、一方通行から双方向ビジネスにすると いいと思います。それともこれも、法律で禁止しているでしょうか。


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