2016年7月のメッセージ

UKのEU離脱という決断


何かとざわめきの多いここ一、二ヶ月です。特に、6月末のUKの国民投票の結果には驚かされました。英国民はEU離脱を決断しました。日本ではこの決断に対して、批判の嵐です。この決断を支持するコメントは聞いたことがありません。国民投票という選択自体がいけないのだという意見も聞こえます。民主主義を否定する発言ですが、確かに民主主義の危険性を如実に示す事件でした。


だけども、この決断は「あっぱれ!」です。この決断を批判する知識人は概して既得権益者であり、変化やリスクに弱い人たちです。確かにEU離脱は危険だし失敗のように思えますが、その逆の可能性もあります。ここで一番悪いチョイスは、不満を持ちながら決断せずに問題を先送りすることです。EU離脱、面白いじゃないですか。その後にUKが破綻するかEUの他の国が破綻するか、あるいはEUが別の方向へ変化するか、まったく分かりません。これは多体の複雑系の強い相互作用の問題ですから、未来はまだ決まっていないと思います。むしろこれからの未来において、日本を含めてそれぞれの組織や国がそれぞれの局面でどう動いていくかが大切でしょう。物理の世界でいうと、いま、系に摂動を与えたのです。ほんのわずかな摂動だけでも、予想外の現象が生じたり予想外の結果に至るかもしれません。国民投票以外にもあらゆる場所であらゆる時刻で、摂動は与えられています。


EU離脱の結果として、スコットランドのUKからの独立を引き起こしたり、北アイルランドとアイルランドの合併だって起きうるかもしれません。いや、起きないかもしれません。未来は確定していないのです。2014年秋のスコットランドの住民投票においてもしスコットランドがUKから独立を決めていたら、事態は今回とはまた異なっていたことでしょう。


何が正しいのか、素人の私にはおよそ見当もつきません。しかし、イギリスの過半数がEU離脱を決断するとはすごいなあ、と感心するのです。およそ、日本にはこんな重大なことの決断はできないように思います。日本人の得意とするのは、決断ではなくて問題先送りです。終戦(敗戦)の決断ももっと早くすれば、沖縄、広島、そして長崎の犠牲は避けられたはずです。北方領土も失わなかったことでしょう。しかし、決断せずに先送りしたのです。いま日本で最も過激だと思われる大阪ですら、昨年の住民投票で大阪府と大阪市の統合を否決しました。大阪の日本国からの独立ならすごい決断だとは思いますが、大阪府と大阪市の合併なんて申し訳ないが、まあ大したことはない。EUではかつてユーゴスラビアが解体され、チェコスロバキアは分離され、ベルギーは分断の危機が続き、スペインのバスク地方やカタルーニャ地方の独立運動が長年にわたって活発です。沖縄や九州、四国、北海道にそんなことが起こりそうな気配はありません。だから日本のマスコミには、UKのEU離脱は青天の霹靂なのです。


7月10日の参議院選挙では、最大の争点として「改憲」が取り上げられました。参議院の2/3以上の議席を持つと憲法改正の発議ができるからだそうです。与党は2/3の議席数を得ましたが、世論調査では改憲論議をすることは反対のようです。これもまた先送りです。ベルリンの壁が倒壊しソビエト連合が崩壊して東西冷戦が終わり、国家間の対立ではないテロリズムや宗教問題が勃発し、あらたに北朝鮮や中国が力を持つなど、日本国憲法ができたころと世界の情勢は変わりつつあります。女性が社会で働くようになり、夫婦別姓を求める声が大きくなり、同一性障害に苦しむ人に対する配慮の意見も出てきています。個別のそして地球規模での環境問題が大きなテーマとなってきました。今の憲法が制定されたときには想定されていない事柄なので、今の憲法上では認められないことが多くあります。今の時代のルールは今の人が決めることが、民主主義の基本です。それでも憲法を変えることの議論をしてはいけないと考える人が多数です。難しい問題に対する決断に取り組むことなく先送りすることが、戦争被害を拡げたときと逆の立場で起こっているような気がします。変える議論をしないことは、楽です。だから、イギリス国民はあっぱれ!だったと思うのです。


7月30日に東京都知事選挙があり、小池百合子さんが圧勝しました。そして野党統一候補は惨敗しました。急に都知事選をやることになった理由は与党推薦の前都知事の公私混同問題による辞職ですから、本来なら野党4党推薦の候補者が勝つはずです。与党は分裂選挙になったのですから、野党統一候補はますます有利です。その前の参院選挙の与野党の票数を数えてみても、野党統一候補が圧勝するはずです。野党4党は与党よりも十分熱心に、そして組織的に支援活動しました。それなのに、小池さんが倍以上の票を獲得して当選されました。そして、自民党都連公認で与党統一候補も小池さんに遠く及びませんでした。


政策が具体的であったとか相手側に失敗があったなど、いろんな分析がなされています。だけどそれよりも私は、小池さんが組織の支援もなく一人でリスクを負って「決断」したことが、都民のシンパシーを得たのではないかと思います。


日本の人たちも、決断をあっぱれと評価するのです。組織に締め付けられても、決断する人を評価したのです。日本の国民(都民ですが)も見捨てたものじゃあないね。民主主義におめでとう。


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